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介護のお仕事お役立ちコラム

【第8回】「逆から考える介護現場」の「脳」の能力拡張

逆から考える介護現場の連続コラム

 前回は、「目、耳(視覚・聴覚)」の能力拡張をするための介護ロボットやICT機器について、「視る、観る、診る、看る」、「聞く、聴く、訊く」という観点で考えました。今回は、「脳」の能力拡張をするための介護ロボットやICT機器について考えたいと思います。

■「脳」の機能にはどんなものがあるか

 「脳」と聞くと、どんなことを思い浮かべますか? 「頭の中にある臓器」、「考えるところ」、「心をつくるところ」等、色々なイメージをされるのではないでしょうか。
 人間の「脳」には「大脳、小脳、脳幹」等のさまざまな部分があります。いずれも大切な部分ですが、今回は「大脳」の働きについて考えてみましょう。大脳の機能は、大きく以下のようにわけることができます。

1.記憶:覚える等に関すること

2.思考:判断する等に関すること

3.感覚:見る、聞く等に関すること

4.運動:手足を動かす等に関すること

5.創造:新しいことを考える等に関すること

https://www.chugai-pharm.co.jp/ptn/medicine/karada/karada001.html

 ひとくちに、大脳の機能といっても、さまざまなものがありますね。現在の介護ロボットやICT機器には、ケアスタッフの「脳」のどのような能力拡張をするのかを見ていきましょう。

■「記憶」の能力拡張

 「どのような介護を実施したのか」、「利用者の食事量やバイタルサインはどうだったのか」等の介護記録はケアスタッフの重要業務の1つです。しかしながら

  1. 各ケアスタッフが手書きでメモをする
  2. ステーション等の一覧表に手書き記入する
  3. リーダー等が表計算ソフトや介護記録システムに打ち込み

 といった感じで、二度手間、三度手間になっていることも散見されます。このようなことにならないように、介護記録ソフトのメーカーはスマートフォン等に対して、簡易に選択、記入できたり、音声記録ができたりする便利な仕組みを展開しています。一度、記録ができると、そのことを忘れても、記録を呼び出すことで過去の情報を認識することができます。つまり、「記憶」の能力拡張をしているということです。

 また、ネットワークで共有されることができれば、一人のケアスタッフが記録した内容を複数のケアスタッフや看護師等の多職種で共有することができます。すると、複数の目で確認できるだけではなく、各専門職の目線(観点)で情報を見て、より最適な介護や医療を提供することに繋がりますね。
 

■「思考」の能力拡張

 近年、AI(人工知能)を組み込んだアセスメントシステムも出てきました。一般的にケアマネジャーは、利用者の身体状態等のデータを入力した上で、どのような介護サービスを提供すれば良いかを考えて、本人や家族に提案していますね(アセスメント)。すると、どのような介護サービスの提案が良かったのか、それとも悪かったのかのデータが次第に蓄積されてきます。

 このようなデータが大量に(ビッグデータとして)たまると、「どのような状態の利用者に対して、どのような介護サービスが良かったのか」といった傾向がわかるようになってきます。これらの傾向を、AIを用いて算出して、ケアマネジャーやケアスタッフに提案する仕組みです。つまり、「思考」の能力拡張をしています(厳密にいうと、思考の支援ですね)。

■「感覚、記憶、思考」の能力拡張

 前回、ネオスケアのような「見守り介護ロボット」には、「視る、観る、診る、看る」といった観点で考える必要があるということをお伝えしました。その中で、「診る、看る」には大脳の機能である「感覚」だけではなく、「思考、記憶」も大きくかかわります。

 利用者が発するわずかな振動を分析することにより、「心拍数」や「呼吸数」等の居室内にいる利用者の「状態」を把握することができる機能があるものを、「診」守り介護ロボットと呼びました。センサー等により得られた情報がどのようなものであり、利用派の状態が「正常」であるのか、「異常」であるのかを「判断」する必要があります。つまり、大脳の機能である「思考(判断)」が必要だということがいえます。

 他方、利用者のさまざまな情報を継続的に蓄積して、過去と現在の「比較」をすることができる見守り介護ロボット・システムもあります。日々の変化ではわからないが、1週間、1ヵ月、1年といった期間の変化を見ることで、利用者の変化が明らかになることもあります。このようなことができるものを、「看」守り介護ロボットと呼びました。ここには、大脳の機能である「記憶」が必要ですね。
つまり、「診」守り介護ロボットや「看」守り介護ロボットは「目や耳」に相当するセンサー(感覚器)と、「感覚、記憶、思考」という大脳の機能に相当するコンピュータ等が合わさったものだといえます。

■「運動」の能力拡張

 「腰痛」は介護職員の多くが抱える課題です。この課題を解決する1つの方法として、サイバーダイン社のHALやマッスル社のSASUKEといった移乗介助を支援する介護ロボットの活用があります。これらの介護ロボットには、ケアスタッフが移乗介助をするときの「腰や下肢の動き」のサポート機能があります。移乗支援の介護ロボットは、「筋肉」に相当するモーターやアクチュエーター(運動器)と、どのような動きをサポートすれば、良いのかといった、「運動」という大脳の機能に相当するコンピュータ等が合わさったものだといえます。

■「創造」の能力拡張は?

 辞書によると、「創造」は「新しいものを初めてつくり出すこと」であり、「文化を創造する」「創造的な仕事」「創造力」等のように用いられます(https://www.weblio.jp/content/創造)。
 現在、AIを用いてケアプラン作成を支援するシステム等が作られていることは先にもお示ししました。しかし、よく説明を聞くと、過去うまくいったケアプランを分析して、それらを「教師」としてプログラムが組まれているようです。つまり、ある状態の利用者に対して、過去の経験でうまくいった介護を「モデル」として持ち、新たな利用者により適した介護を「選択」するといった感じでしょうか。データが巨大で、過去によく似た利用者がいれば、信頼性の高い提案ができますが、データが少量であると、過去によく似た利用者がおらず、なかなか良い提案ができないと考えられます。創造的な介護を実現できる介護ロボットの実現には少し時間が必要かもしれません。

 私が知っている多くのメーカーは、この利用者の「ビッグデータ」をどのようにして収集するかに、最も力を入れています。現在、科学的介護情報システム(LIFE)が厚生労働省を中心に進められていることはご存知だと思います。大量なデータを収集して、利用者の状態像を把握して、7つのハザード(転倒、発熱、脱水、褥瘡、誤嚥、移動能力低下、認知機能低下)を回避するためにはどのような介護をすべきかについて、統計学を用いて介護現場にアドバイスをするといった仕組みです。このような動きの中で、より多くの利用者の状態データや介護サービスのデータが揃うことで、より効果的効率的な介護サービスが実現することが期待されています。

■リーダーは何をすべきか

 コラムの第6回から第8回(今回)は、「介護ロボットやICT機器は、ケアスタッフの能力拡張の道具である」ことをお伝えしました。第1回から第5回までは、「リーダーシップ」、「サービス品質」、「人材育成」、「チームワーク」、「メッセージ」についてお話をしてきました。一度、読み直していただき、以下のようなことについて考えていただければと思います。

「リーダーである私は、どのように考え、行動していくべきだろうか」

 介護を必要とされる方はますます多くなり、介護をするケアスタッフはますます減ってきます。そのような近未来に対して、介護のサービス品質とはどのようなものであるのかを理解して、リーダーシップを発揮して、ケアスタッフのチームワークを育てていくために、どのようなメッセージを発信して、どのような人材育成をすべきなのか。そして、自分たちの能力拡張をしてくれる介護ロボットやICT機器をどのように使いこなしていけばいいのかについて、ぜひ考えてみてください。
 私は、介護は「人間ができる最高のサービス」だと信じています。機械に置き換わるのではなく、人間であるケアスタッフが最高のサービスを提供するための道具や環境をどのように組み合わせ、作り上げていくのかがカギです。
自分たちの施設は、「どのような施設環境や制度か(ストラクチャー)、どのようなニーズ収集と介護サービス提供か(プロセス)、そして利用者がどのような心と体の状態になっているか(アウトカム)」を繰り返し、振り返りながら、より良い状態にしていきましょう。

1974年神戸市生まれ。博士(保健医療学)+3修士(工学・経営情報学・保健医療学)。姫路工業大学大学院、多摩大学大学院、国際医療福祉大学大学院修了。オットボックジャパン㈱、川村義肢㈱、㈱オーテックジャパン、(学)帝京大学、(社福)善光会・サンタフェ総合研究所等を経て、現在、国際医療福祉大学大学院・非常勤講師、東京未来大学福祉保育専門学校・非常勤講師、東京福祉専門学校(ICT・介護ロボット専攻)・非常勤講師、公益財団法人テクノエイド協会福祉用具プランナー管理指導者養成講師、ICT介護教育研究会・世話人、一般社団法人ワイズ住環境研究所・理事、主体的学び研究所・フェロー、株式会社シード・プランニング・顧問等。