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介護のお仕事お役立ちコラム

【第1回】「逆から考える介護現場」のリーダーシップ

逆から考える介護現場の連続コラム

 東洋経済オンラインに興味深い記事がありました。

“リーダーたるもの余計なことをごちゃごちゃ言うのではなく、言葉少なくあれ。すると、人々は何かの仕事を成し遂げたとき「自分でやり遂げた」と感じることができる。そんなリーダー像を老子は説いています。”

できるリーダーは「存在感が薄い」納得の理由(2021/05/11東洋思想研究家 田口佳史氏)

 いかがでしょうか。あなたのリーダーのイメージと同じですか?少し違いますか?リーダーについて、中国の老荘思想で有名な「老子」が大昔になかなか興味深いことを言っているようですね。

■上から?下から?

 さらに質問です。皆さんが仕事をしていて「自分でやり遂げた」と感じる瞬間はどんな時ですか?

  • 仕事を終えて、お客様から「ありがとう!」と感謝されたとき
  • ゴールに到達して、心の中で「やった!」と小さなガッツポーズをとったとき

 そんなときに、あなたは上司にどう言ってもらいたいですか?

  • 「やっぱりな、俺が言ったとおりだろ?」
  • 「すごいね、そのやり方教えてね!」

 アメリカのロバート・K・グリーンリーフ(1904–1990)は「サーバント・リーダーシップ」を提唱しています。「サーバント=執事」といった意味合いです。「リーダーである人は、まず相手に奉仕し、その後相手を導くものである」というリーダーシップ哲学です。老子もグリーンリーフも、「上から引っ張るリーダー」ではなく、「下から支えるリーダー」をイメージしているのではないかと思います。

■介護ロボット導入とリーダー

 ちょっと、想像してみてください。あなたの施設に「見守り介護ロボット」が導入されることが決まりました。現場スタッフからの反応はどのようなものですか?

  • 「夜間巡視が楽になるのではないか」という期待
  • 「ご入居者を気に掛けなくなるのではないか」という不安

 ちょっと、想像してみてください。あなたは「見守り介護ロボットの導入リーダー」です。現場スタッフの期待と不安に対して、どのように接していきますか?

  • 「理事長、施設長が導入を決めたんだから、従おう!」と鼓舞する
  • 「なんで、見守り介護ロボットを導入すると思う?」と傾聴する

 実は、これまでにさまざまな介護ロボットが介護現場に導入されました。ある施設では、導入がうまくいき、その効果が出ました(ケア品質向上と業務効率改善の同時実現)。また、別の施設では、導入がうまくいかず、倉庫に入れられたままや、単なる物干し(笑)になってしまいました。

 これらの違いはどこにあったのでしょうか?私は「リーダーの在り方」にあったのではないかと考えています。

 失敗した多くの施設では、「国からの補助金がでるから買おう」、「理事長、施設長が決めたのだから入れよう」という風に、「入れること自体が目的」になっていました。そして、リーダーは導入自体が目的となってしまい、それに合わせた言葉を発信していました。これでは、当然ながら、現場スタッフやご入居者、ご利用者の納得(肚落ち)は期待できません。

 確かに、介護ロボット導入のきっかけは「上から」だったかもしれません。しかし、導入を成功させ、価値を最大限に発揮させるためには、現場スタッフが自ら考えることを「下から」支える必要があります。現場スタッフが自ら考え、介護ロボットが「なぜ必要なのか」、「どのように導入したら良いのか」、「何ができるのか」に思いを巡らして初めて、導入が前に進みます。

■介護福祉士養成校におけるリーダー教育

 リーダー教育は2019年から順次、全国の介護福祉士養成校(大学、短大、専門学校等)に導入されています。公益社団法人日本介護福祉士養成施設協会の「新カリキュラム 教育方法の手引き」には以下のように書かれています。

⼈間関係とコミュニケーション(60時間以上)【教育の視点】介護実践をマネジメントするために必要な組織の運営管理、人材の育成や活用等の人材管理、それらに必要なリーダーシップ・フォロワーシップ等、チーム運営の基本を理解できるようにする。
⽣活⽀援技術(300時間)【教育の視点】介護ロボットを含め、福祉用具を活用する意義やその目的を理解するとともに、対象者の能力に応じた福祉用具を選択、活用する知識・技術を習得できるようにする。

 今後、養成校を卒業した新入職員は、これらの教育を受けてきます。

 学生や就職希望者から、あなたの施設はどのように見られたいですか?

  • 介護ロボットの意義や目的を理解したリーダーがいる施設
  • これまで通りの介護技術や管理体制の施設

■今から始めよう

 いかがだったでしょうか?もし、あなたがリーダーの役割を期待されているとしたら、「下から支えるリーダー」という視点で自らを振り返ってみてください。自動車は、ハンドルを急に切ったら転倒します。あなた自身の性格も組織文化も同じです。少しずつ、でも着実に「心のハンドル」を切って、あなた自身や環境を変化させる「ドライバー」(リーダー)になってみませんか。

小林宏気先生肖像

著者:小林宏気

1974年神戸生まれ。博士(保健医療学)+3修士(工学・経営情報学・保健医療学)。姫路工業大学大学院、多摩大学大学院、国際医療福祉大学大学院修了。オットボックジャパン㈱、川村義肢㈱、㈱オーテックジャパン、(学)帝京大学、(社福)善光会・サンタフェ総合研究所等を経て、現在、国際医療福祉大学大学院・非常勤講師、東京未来大学福祉保育専門学校・非常勤講師、東京福祉専門学校(ICT・介護ロボット専攻)・非常勤講師、介護ロボット・ICT教育研究会・世話人、一般社団法人ワイズ住環境研究所・理事、主体的学び研究所・フェロー、株式会社シード・プランニング・顧問等。