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介護のお仕事お役立ちコラム

【第7回】「逆から考える介護現場」の「目、耳」の能力拡張

逆から考える介護現場の連続コラム

第7回「逆から考える介護現場」の「目、耳」の能力拡張

 前回は、ケア品質向上と業務効率化を同時に実現するためには、ケアスタッフの「能力拡張」が必要であり、その「道具」として介護ロボットやICT機器があるのだということ、介護は「感情労働」であり、納得なき導入は逆効果になるということをお話しました。今回は、「目、耳(視覚・聴覚)」の能力拡張をするための介護ロボットやICT機器について考えたいと思います。

■「みる」には「視る、観る、診る、看る」がある

 「目」の機能は「みる」ですよね。「みる」といわれて、どのような漢字を思い浮かべますか?「見る」だけでしょうか?他には以下のような「みる」があるようです。

視る:正視・監視などの意

観る:遠くから見物する意

診る:診察する意

看る:世話する意

https://sakura-paris.org/dict/明鏡国語辞典/content/5940_1234

 「視る」というのは、ある点に着目して、じっと見るのに対して、「観る」は逆に、全体を見渡す感じですね。「診る」はいろいろと見て情報を集めて判断するのに対して、「看る」は寄り添って長く見続けるという感じでしょうか。一般的に「みる」は「見る」と書きますが、これらのさまざまな意味を包み込んでいるようです。
 さて、見守り介護ロボットに求められている「みる」機能は、これらのどれにあたるのでしょうか。少し考えてみましょう。

■「視」守り介護ロボット

離床

 まず、見守り介護センサーの主な機能として、「ベッド離床検知」があります。夜間、利用者がトイレ等にいくために離床したことをケアスタッフに知らせ、訪室を促し、万が一の転倒や排泄介助に繋げます。また、ベッド上での体動を検知することで、紙おむつの交換等のタイミングを知るためにも活用していると思います。このように見守り介護ロボットが導入されたことにより、これまではわからなかった居室内の利用者の動きを知ることができます。
 つまり、居室内にいる利用者の「離床」や「寝返り」といった、特定の「動き」に着目して、知らせる機能があることから、「視」守り介護ロボットだと言えそうです。

■「観」守り介護ロボット

 次に、シルエットやモザイクの映像を見ることができるタイプもあります。きっかけとしては、離床や転倒といった動きを検知して、ケアスタッフのスマートフォンや事務所のモニターで見ることができます。これにより、どのような状況であるのかを居室に行く前に認識することができ、必要な準備をしてから向かうことが可能になります。また、複数の居室に行く必要があると判断される場合の優先順位付けに活用することができます。
 つまり、居室内にいる利用者の「状況」を把握することができる機能があることから、「観」守り介護ロボットでしょうか。

■「診」守り介護ロボット

 利用者が発するわずかな振動を分析することにより、「心拍数」や「呼吸数」を検知する機能がある見守り介護ロボットもあります。ケアスタッフ(人間)にはすぐに計測することができないバイタルサインを、しかも遠隔にいても知ることができます。このような機能により、利用者の身体的な状態を定量的に把握することができます。
 つまり、居室内にいる利用者の「状態」を把握することができる機能があることから、「診」守り介護ロボットですね。

■「看」守り介護ロボット

 最後に、これまでに挙げた「動き」、「状況」、「状態」に関する情報を継続的に蓄積して、過去と現在の比較をすることができる見守り介護ロボット・システムもあります。
昔、テレビ番組で、「画面が徐々に変化して、どこが変わったかを当てるクイズ」がありました。人間は、急な変化には気づきやすいですが、緩やかな変化には気づきにくい生き物です。久しぶりに会った友人の変化に驚いたことはあるでしょう。もし、毎日会っていたら、その劇的な(笑)変化には気がつかなかったかもしれません。

  つまり、日々の変化ではわからないが、1週間、1ヵ月、1年といった期間の変化を見ることで、利用者の変化が明らかになることもあります。さしずめ、「看」守り介護ロボットでしょうか。

■「きく」にも「聞く、聴く、訊く」

 他方、「耳」の機能である「きく」にもいくつかの表現がありますね。

“「聞く」は、音や声を耳に感じ認める意、「聴く」は、聞こえるものの内容を理解しようと思って進んできく意である。他にも、「訊く(きく)」という言葉がありますが、これは、相手に何かを尋ね、答えを求める場合に使用します。”

聞くと聴くの意味の違い・使い方の解説

https://www.weblio.jp/content/

 介護では、ケアマネジャーが行う「アセスメント」や、ケアスタッフとご利用者、ケアスタッフ同士等のちょっとしたお話や不満や要望、申し送り等の「会話や対話」が日々繰り返されています。近年はインカムによる会話やスマートフォンを用いたチャット等でコミュニケーションを行う介護施設も増えてきました。そのときの「きく」は「聞く、聴く、訊く」のどれであるか意識していますか。

■リーダーは何をすべきか

 見守り介護ロボットを選択するときに、「視る、観る、診る、看る」、「聞く、聴く、訊く」のどの機能を中心に、あなたの介護施設では必要をしているか理解していますか。
 見守り介護ロボットを導入する以前に、あなたの介護施設で働くケアスタッフは、どのように「みる」、「きく」ことを心掛けていますか。指導するリーダーは、どう教えていますか?
 普段、「視る」ことだけを心掛けている介護施設に、「看る」ことができる見守り介護ロボットを導入して、果たして十分にその機能を発揮させることができるでしょうか。

 「聞く」ことだけを指導している部下に対して、「訊く」ことができるコミュニケーション・ツールの活用を説いても理解してもらえるでしょうか?
 もうお分かりだと思いますが、介護ロボットやICT機器を導入する前に、現在している「見守りやコミュニケーション」に対して、ケアスタッフの皆さんの理解がどこまで到達しているのかが重要だということです。

■ケアテックへの追い風

 話は少し変わります。介護ロボットやICT機器は「ケアテック(Care Tech)」と呼ばれることがあります。ケアテックについて、こんな記事がありました。読まれた方も多いと思います。

 日本ケアテック協会、「ケアテック活用推進法」を提言する要望書を提出

“ケアテックの定常的な保険収載によりケアの質の向上、国民の生活をより安心・安全で利便性あるものにし、同時に介護従事者、事業者の負担軽減、生産性向上を目指します。”

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000003.000069692.html

要望書の最後には以下の内容が書かれています。

“⑥テクノロジーを活用したアウトカム評価制度の再検討
これまで取り組まれてきた自立支援の概念や、状態像の変化に対してアウトカムを求めるいくつかの加算等の創設を踏まえると、既存の要介護度のあり方についてもBarthel Index等の指標を活用したアウトカムを念頭においた枠組みへの見直しを検討すべきである。また、評価においては、テクノロジーを活用することによって、データによるエビデンスに基づいた客観的なアウトカム評価が可能となるので、テクノロジーを活用したアウトカム評価制度の再検討もお願いしたい。”

 詳しくは別の機会にお話ししますが、「テクノロジーを活用したアウトカム評価制度」というポイントだけおさえておいてください。つまり、見守り介護ロボットの「診る」機能や、「看る」機能を基に介護サービス利用者のアウトカム(結果)が評価される可能性がでてきました。もちろん、いまのところ要望書の段階なので、本格的な議論はこれからだと思いますが、リーダーである皆様は時代が少しずつ変化をしていることに対して、「視る」だけでなく、「観る、診る、看る」ことを、「聞く」だけではなく「聴く、訊く」ことを心掛けてください。

著者:小林宏気
1974年神戸市生まれ。博士(保健医療学)+3修士(工学・経営情報学・保健医療学)。姫路工業大学大学院、多摩大学大学院、国際医療福祉大学大学院修了。オットボックジャパン㈱、川村義肢㈱、㈱オーテックジャパン、(学)帝京大学、(社福)善光会・サンタフェ総合研究所等を経て、現在、国際医療福祉大学大学院・非常勤講師、東京未来大学福祉保育専門学校・非常勤講師、東京福祉専門学校(ICT・介護ロボット専攻)・非常勤講師、公益財団法人テクノエイド協会福祉用具プランナー管理指導者養成講師、ICT介護教育研究会・世話人、一般社団法人ワイズ住環境研究所・理事、主体的学び研究所・フェロー、株式会社シード・プランニング・顧問等。