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介護のお仕事お役立ちコラム

【第6回】「逆から考える介護現場」の能力拡張

逆から考える介護現場の連続コラム

 前回は、メッセージを伝えるためにリーダーには「余裕を持つ」、「安全であることを伝える」、「『なぜ』から伝える」ことが重要だということをお話しました。いよいよ今回からは、介護現場のリーダーが理解しておくべき、「介護ロボットが実現する能力拡張」について考えます。「Why・How・What」でいうところの「What」(介護ロボットやテクノロジーで何ができるのか)について考えていきたいと思います。

■介護ロボット6分野

 厚生労働省・経済産業省は「ロボット技術の介護利用における重点分野」を6分野13項目と定め、その開発・導入を支援しているのはご存知でしょうか?「移乗介助、移動支援、排泄支援、見守り・コミュニケーション、入浴支援、介護業務支援」の6分野に整理されています。特に中央省庁の議論や資料で「介護ロボット」が語られるときには、こちらの分類で紹介されることが多いです。

厚生労働省HP 介護ロボットの開発・普及の促進

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000209634.html

(1)移乗介助

  1. ロボット技術を用いて介助者のパワーアシストを行う装着型の機器
  2. ロボット技術を用いて介助者による抱え上げ動作のパワーアシストを行う非装着型の機器

(2)移動支援

  1. 高齢者等の外出をサポートし、荷物等を安全に運搬できるロボット技術を用いた歩行支援機器
  2. 高齢者等の屋内移動や立ち座りをサポートし、特にトイレへの往復やトイレ内での姿勢保持を支援するロボット技術を用いた歩行支援機器
  3. 高齢者等の外出等をサポートし、転倒予防や歩行等を補助するロボット技術を用いた装着型の移動支援機器

(3)排泄支援

  1. 排泄物の処理にロボット技術を用いた設置位置の調整可能なトイレ
  2. ロボット技術を用いて排泄を予測し、的確なタイミングでトイレへ誘導する機器
  3. ロボット技術を用いてトイレ内での下衣の着脱等の排泄の一連の動作を支援する機器

(4)見守り・コミュニケーション

  1. 介護施設において使用する、センサーや外部通信機能を備えたロボット技術を用いた機器のプラットフォーム
  2. 在宅介護において使用する、転倒検知センサーや外部通信機能を備えたロボット技術を用いた機器のプラットフォーム
  3. 高齢者等とのコミュニケーションにロボット技術を用いた生活支援機器

(5)入浴支援

  1. ロボット技術を用いて浴槽に出入りする際の一連の動作を支援する機器

(6)介護業務支援

  1. ロボット技術を用いて、見守り、移動支援、排泄支援をはじめとする介護業務に伴う情報を収集・蓄積し、それを基に、高齢者等の必要な支援に活用することを可能とする機器

■介護ロボットの再整理

 この6分類の整理に対して、私は介護ロボットを活用する「ケアスタッフの能力を拡張する」という視点で、以下のように整理させていただいています。これまでに、色々な講義や講演会等でご説明していますが、「初めて聞いた」、「ケアスタッフが中心で良い」というご意見を多くいただいております。

(1)視覚・聴覚等の拡張(目・耳)

(2)記憶・判断等の拡張(脳)

(3)動作・支持等の拡張(筋肉)

(4)会話・伝達等の拡張(口)

neoscare

 ひとつずつ見ていきましょう。まず、「視覚・聴覚等の拡張」のためのテクノロジーには、見守り介護センサーである「ネオスケア」(ノーリツプレシジョン社)や排尿予測ができるDFree(トリプルダブリュージャパン社)等が有名です。ネオスケアは介護施設等の各居室に設置することで、プライバシーを守りながら、転倒予防をすることができます。つまり、ケアスタッフの「目」を各居室に置いておくことができるといえますね。

 「記憶・判断等の拡張」のためのテクノロジーには、介護記録等のソフトである「ケアカルテ」(ケアコネクトジャパン社)や「ほのぼの」(NDソフトウェア社)、「すぐろく」(ワイズマン社)等が有名です。介護記録(サービスの提供の記録)は義務付けられているため、非常に多くの記録支援ソフトがあります。

介護を必要としている方々と「向き合う時間」を増やす介護記録 CARE KARTE

 「動作・支持等の拡張」のテクノロジーには、移乗を支援する介護ロボット「Hug」(FUJI社)や、マッスルスーツ(イノフィス社)等が介護現場に多く導入されています。ケアスタッフの上半身や腰部(脊柱起立筋群)等の筋肉の拡張と言えそうです。

 「会話・伝達等の拡張」のテクノロジーには、「バディコム」(サイエンスアーツ社)といったデスクレスワーカー専用のコミュニケーションツールや、「Orihime」(オリィ研究所)やLINE WORKS(ワークスモバイル社)等があります。バディコムは音声・映像をワンプッシュでメンバーへライブ送信ができ、介護だけではなく電車やパス等の交通機関でも活用されています。Orihimeは遠隔地にいる方に感情豊かに会話ができる「分身ロボット」としてさまざまな場面で活用されています。また、ケアスタッフ同士のコミュニケーションをスムーズにするためにLINE WORKSをはじめとするさまざまなソフトが介護現場で活用されはじめていますね。

デスクレスワーカーをつなげるライブコミュニケーションプラットフォーム Buddycom

 過去のコラム「第2回『逆から考える介護現場』のサービス品質」で書かせていただきましたが、ケアスタッフには「アイアンマン」になって欲しいと考えています。アイアンマンは最新テクノロジーを全身に装着をして活躍するヒーローです。大切なのは、それらの「道具」を良いことのために使うか、悪いことのために使うかです。ご利用者に対するケア品質を向上させるための取組であって、自分が仕事をサボるためのものではありませんね。

■介護は感情労働

 介護は、「感情労働」だといわれています。感情労働というのは、その場面で求められている、あるいはその場面にふさわしい感情を示すために、自分自身の本当の感情を抑え込み、感情をコントロールする必要がある仕事を指しています。元々は、航空機のキャビンアテンダント(客室乗務員)がその代表例とされていましたが、今は、看護師や介護職、企業の苦情処理担当なども感情労働に当たるといわれるようになりました。

https://www.kaigo-kyuujin.com/oyakudachi/topics/53630/

 介護の品質には、ケアスタッフの「感情」が大きく影響しそうです。例えば、プライベートで嫌なことがあったときに、目の前のご利用者に強く当たってしまったことはありませんか?逆に、上司や同僚に褒められたり認められたりしたときに、普段は辛いと思っていたことも、楽々とできて、ご利用者に満足していただいたことはありませんか。

 介護を感情労働だと考えると、「ケアスタッフに納得してもらうことなく」介護ロボットやICT機器等を導入したときはどうなるでしょうか?もしかしたら、「何かメンドクサイものを使わなければならなくなった…」、「介護は人の手でするものでしょ?(怒)」、「クビになってしまうかもしれない、心配だ(泣)」等といったような感情が湧いてくるかもしれません。そうなってしまうと、その感情が提供される介護の品質に直結してしまい、せっかく良かれと思って導入したのに逆効果になってしまいかねません。ケアスタッフに納得してもらうことが何よりも重要なのです。

■リーダーは何をすべきか

 「介護ロボット」と聞いて、「あぁ、アレね!」と想像できる人はどれくらいいるでしょうか。私の感覚では、3割くらいかなと思います。そして、具体的に「どのような課題のために、どのようなテクノロジーを導入したら良いか」が明確に分かっている人は1割もいないのではないでしょうか。今年、私が全国の介護福祉士養成校の現役教員に対して行ったアンケートでは、教育現場において介護ロボット教育が「あまりできていない、まったくっできていない」とした回答が7割を超えました。つまり、教育現場だけに頼っていては、ダメだということです。つまり、介護現場におけるケアスタッフ一人ひとりの、介護ロボットへの理解を進めることが極めて重要だといえます。

 このコラムを読んでくださる介護現場のリーダーや管理者の皆様がフロントラインです。まず、皆様がよく考えて、理解していただき、試行錯誤をしながら「ケア品質向上と業務効率化を同時実現するための道具」としての介護ロボットやICT等のテクノロジーについて学び続けていただければと思います。このことを覚えておいてください。

著者:小林宏気

1974年神戸市生まれ。博士(保健医療学)+3修士(工学・経営情報学・保健医療学)。姫路工業大学大学院、多摩大学大学院、国際医療福祉大学大学院修了。オットボックジャパン㈱、川村義肢㈱、㈱オーテックジャパン、(学)帝京大学、(社福)善光会・サンタフェ総合研究所等を経て、現在、国際医療福祉大学大学院・非常勤講師、東京未来大学福祉保育専門学校・非常勤講師、東京福祉専門学校(ICT・介護ロボット専攻)・非常勤講師、公益財団法人テクノエイド協会福祉用具プランナー管理指導者養成講師、ICT介護教育研究会・世話人、一般社団法人ワイズ住環境研究所・理事、主体的学び研究所・フェロー、株式会社シード・プランニング・顧問等。