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介護のお仕事お役立ちコラム

【第5回】「逆から考える介護現場」のメッセージ

逆から考える介護現場の連続コラム

「逆から考える介護現場」のメッセージ

 前回は、チームワークを向上させるために、「褒める」、「繰り返す」、「共通体験をする」ことが重要だということをお話しました。今回は、介護現場のリーダーが理解しておくべき、「メッセージ」について考えていきましょう。

■今、ちょっといいですか?

 これを読んでいる方の多くは、介護現場でリーダー的な立場にあるのではないでしょうか。そんな皆様に大変興味深い記事がありましたのでご紹介します。介護は忙しいですよね?そういうお仕事をされている方だからこそ、「忙しい」という言葉には気をつけなければならないようです。

 本当に有能なリーダーは「忙しい」といわない理由(東洋経済オンライン、2021年9月17日)

 ”「今ちょっといいですか?」と言い合えるチームメンバーであれば、チームワークがすごくうまくいっています。事業開発や、企画会議、ブレーンストーミング、アイデア出しの会議でも「今ちょっといいですか」が言えるとアウトプットをしやすくなります。

私は、この4年間で19社17件の事業開発に携わりました。その17件のうち会議でアイデアがでたのはたった2件。15件は会議が終わった後に、前室や廊下で、他の部門や上司に「今ちょっといいですか」が起点となっていました。

オンライン会議の後も、しばらく残っていると「今ちょっといいですか?」と声を掛けられることがあります。出勤でもテレワークでも「今ちょっといいですか?」と言い合える関係性を作ることができれば、チームでの共同作業ははかどります。

お互いに協力し合う文化、過剰な気遣いがなく気軽に会話ができる雰囲気があれば、チームはうまくいきます。”

https://toyokeizai.net/articles/-/455392
「今ちょっといいですか?」

  いかがでしょうか?介護現場の多くは申し送りや会議、委員会等のさまざまな集まりがあります。そんな折に、リーダーであるあなたは「今ちょっといいですか?」と言われていますか。もし、言われていないようであれば、表情や雰囲気に「余裕」がなくなっているのかもしれません。もしくは、過去に言われたときに「忙しいから後にして」、「今度のミーティングでまとめて聞くから」といった感じで反応していませんでしたか?

■殺伐とした職場。安心できる職場。

 作家のサイモン・シネックは「なぜ優れたリーダーの元では安心を感じられるか」という動画の中で、優れたリーダーについて以下のように語っています。

”私達に変えられるのは、組織内のあり方だけです。ここでリーダーシップが重要になります。リーダーが方向性を決めるからです。リーダーが組織内の人々の生活と安全を優先するように、心がけ自分達の利便や目に見える成果を犠牲にして、安心感と集団に属している実感を得られるようにすれば、素晴らしい結果が生まれます。

優れたリーダーとは、たとえるなら親のような存在です。素晴らしい親には何が必要なのか?まず子どもにチャンスと教育。必要なら罰だって与えます。すべては子どもが成長し自分より大きなことを達成できるようにするためです。優れたリーダーも同じです。部下にはチャンスと教育。必要なら罰だって与え、自尊心を育み、失敗してもいいから挑戦する機会を与えます。すべては部下が自分達の想像を超えるものを達成できるようにするためです。”

https://www.ted.com/talks/simon_sinek_why_good_leaders_make_you_feel_safe?language=ja

 いかがでしょうか?

 あなたは仕事で失敗したときに、「やってしまった。どうしよう…」といった感じになるのではないでしょうか。上司に報告して、頭ごなしに叱られるとどう感じるでしょうか。ここで、「もう二度と同じ間違いはしないぞ!」と思える人は素晴らしいです。でも、多くの人は更に凹んでしまうと思います。私は今でも、失敗に対してとても弱いです。さらにそれを指摘されるとしばらくの間、凹んでしまいます。

 シネックは、リーダーは「親のような存在」と述べていました。つまり、守ってくれる「安全地帯」が組織やチームに存在していると感じることができるからこそ、次のチャレンジができるようになるのではないでしょうか。

■Why・How・What

 iPhoneやMacBookを生み出したスティーブ・ジョブズ、アメリカの市民権運動を指導したマーチン・ルーサー・キング牧師、世界初の有人動力飛行機を作ったライト兄弟の共通点を知っていますか?

 先ほど登場したサイモン・シネックは、「優れたリーダーはどうやって行動を促すか」という動画の中で、彼らは「なぜ、どうやって、なに(Why・How・What)」の順番で想いを伝えたことで、多くの人々の心をつかみ、偉業を成し遂げたと述べています。

 ”世の中の誰にせよ、どの組織にせよ、自分たちが何をしているかはわかっています。それは差別化する価値提案とか独自のセールスポイントと呼ばれるかもしれません。

 でも「なぜやっているのか」がわかっている人や組織は非常に少ないのです。「利益」は「なぜ」の答えではありません。それは結果です。「なぜ」というときには目的を問うています。実際のところ私達が考え、行動し、伝えるやり方は外から中へです。明確なものから曖昧なものへ向かうのです。

 でも飛びぬけたリーダーや飛び抜けた組織は、考え、行動し、伝える時に中から外へと向かいます。”

https://www.ted.com/talks/simon_sinek_how_great_leaders_inspire_action?language=ja

 いかがでしょうか?

 シネックは、世の中の人の多くは「What→How→Why」の順番で語っているが、リーダーは周囲の人々に対しては、逆に「Why→How→What」の順番で語る(メッセージする)ようにいっています。

 自動車メーカーであるトヨタは社内でトラブルが起こった時や壁にぶつかったときに、「なぜを5回繰り返して真因(本当の原因)を探し出す」ことで有名です。

 また、一橋大学の名和高司教授の提唱する「パーパス(目的・志)経営」がこれからの時代の経営の考え方として注目されています。

「パーパス経営」とは。

【第1回】なぜ世界はパーパス経営に注目するのか

https://www.foresight.ext.hitachi.co.jp/_ct/17469872

 つまり、これからの世界では、「なぜ」このように働いているのか、「なぜ」自分たちはコレをしているのかについて周囲の人々に伝える必要がありそうですね。

■介護Tech導入の「なぜ」

 介護ロボットやICT機器の導入が決まったときに、「なぜ」に応えられるリーダーは何人いるでしょうか。「なぜ」を説明することができる経営者は何人いるでしょうか。

 これまでに、介護ロボット等は「サービス」である「ケア品質向上」と「業務効率化」を同時に実現するために、サービス提供者であるケアスタッフ(介護職員)の「能力拡張(向上)」のための道具だとお伝えしました。つまり、業務効率化だけではなく、ご利用者に対する介護の品質向上も「目的(なぜ)」なのです。

 厚生労働省などが「介護の生産性向上の必要がある」というときに、反対する人の多くは、「生産性」という言葉を「業務効率化」とイコールだと考えているようです。これは間違っています。「生産性」には「ケア品質を維持・向上」させながら、「人手や時間を減らす」ことが含まれています。もし、あなたの周りに勘違いをしている方がいらっしゃれば、誤解を解いてあげてください。

 介護ロボット導入やこれまでの施設内の仕事のやり方を見直すときに、「なんで、こんな面倒くさいことをしているんだ!」と感じたり、言われたりしたときには、この「ケア品質向上と業務効率化を同時実現するため」だということを思い出して、伝えるようにしてください。

■リーダーは何をすべきか

では、リーダーはどうしたら良いか。これまで見てきた3つがポイントになるのではないでしょうか。

  1. 余裕を持つ
  2. 安全であることを伝える
  3. 「なぜ」から伝える

 例えば、見守り介護センサーを導入に対して、反対者や納得できない人がでてきたときに、このような伝え方をすると、少し光明が見えてくるかもしれません。みんなが安心して、疑問や反対意見を発言でき、それをしっかり受け止める余裕を持ち、「なぜ」見守り介護センサーを導入するのかを説明できるようになると、バラバラだった意識のベクトル(方向性)が少しずつ、しかし確実に同じ方向に向いてきます。ベクトルというものは、同じ方向をむいて初めて最大の「力」に合成できます。ズレていてはダメなんですね。このことを覚えておいてください。

著者:小林宏気

1974年神戸市生まれ。博士(保健医療学)+3修士(工学・経営情報学・保健医療学)。姫路工業大学大学院、多摩大学大学院、国際医療福祉大学大学院修了。オットボックジャパン㈱、川村義肢㈱、㈱オーテックジャパン、(学)帝京大学、(社福)善光会・サンタフェ総合研究所等を経て、現在、国際医療福祉大学大学院・非常勤講師、東京未来大学福祉保育専門学校・非常勤講師、東京福祉専門学校(ICT・介護ロボット専攻)・非常勤講師、公益財団法人テクノエイド協会福祉用具プランナー管理指導者養成講師、ICT介護教育研究会・世話人、一般社団法人ワイズ住環境研究所・理事、主体的学び研究所・フェロー、株式会社シード・プランニング・顧問等。