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介護のお仕事お役立ちコラム

【第10回】「逆から考える介護現場」の「介護ロボットの導入教育」

逆から考える介護現場の連続コラム

【第10回】「逆から考える介護現場」の「介護ロボットの導入教育」

 前回は、介護ロボットの研究・開発において、医療・医学と介護の違いや、文化人類学等の関わりについてお話をしました。今回は、介護ロボットに関する「導入教育」について考えたいと思います。

■介護ロボットと「介護保険」

 介護保険法の第一条はご存知でしょうか。あらためて、内容を見てみたいと思います。

“第一条 この法律は、加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病等により要介護状態となり、入浴、排せつ、食事等の介護、機能訓練並びに看護及び療養上の管理その他の医療を要する者等について、これらの者が尊厳を保持し、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、必要な保健医療サービス及び福祉サービスに係る給付を行うため、国民の共同連帯の理念に基づき介護保険制度を設け、その行う保険給付等に関して必要な事項を定め、もって国民の保健医療の向上及び福祉の増進を図ることを目的とする”

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=409AC0000000123

 私はこの第一条が大好きで、中でも「尊厳を保持し、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができる」という部分が、介護保険の一番大切な部分だと考えております。そして、これは当然、介護ロボットやICT機器についても当てはまります。近年普及が進んでいる「見守り介護ロボット」を例に考えてみましょう。見守り介護ロボットの多くは、光学機器(カメラ)を用いています。そこで、「尊厳が保持」できているのかが論点になります。また、離床通知が出たときに、すぐに訪室して、排泄介助をするといったこともありますが、同じように、「その有する能力に応じ」ているのかが論点になります。

メリットとデメリット

つまり、介護保険で謳っている精神に反する介護ロボット・ICT機器の導入になってはならないのです。しかし、これらは機器側の問題だけではなく、これらを使いこなす介護現場のケアスタッフや、教育現場である介護福祉士養成校の教員も一緒に考えていかなければならないと思います。そこで、今回は介護ロボット・ICT機器を導入教育について考えてみたいと思います。

■介護ロボット教育が足りない

 令和元年の老健事業「介護ロボットの活用に向けた人材育成に関する調査研究事業」では、以下の3点が指摘されました。

  1. 介護ロボット等福祉機器の導入は、介護サービスの質向上と業務効率化の「手段」であって、「目的」ではない。
  2. 介護ロボット等福祉機器の導入をする前に介護現場の状況を十分に把握した上で、しっかりと計画を立てる必要がある。
  3. 介護ロボット等福祉機器に関する教育が出来る教員が極めて少数である。

 これらの指摘を受け、「既に現場で働く介護職員や教員に対する教育」が最重要課題だと考え、ガイドラインがまとめられています。

https://www.zenkoukai.jp/japanese/news/9008

わからない

 どうやら、介護ロボットが介護現場に導入されない大きな要素として、「なぜ介護ロボットが必要なのか納得できない(Why)」、「どうしたら良いのかわからない(How)」、「何ができるのか知らない(What)」の「3ない状態」があるようです。つまり、この3つを説明して、理解してもらうための教育プログラムが不十分であり、それは介護現場だけでは解決が難しいのではないかと考えられます。

■自治体等による介護ロボットの「導入教育」支援

 そこで、介護ロボットの導入支援や普及について、介護ロボットで先駆的な活動をしている北九州市を見てみましょう。北九州市介護ロボット等導入支援・普及促進センサーでは、「ICT・介護ロボット等を活用した介護現場の新たな働き方モデル(北九州モデル)」を提唱しています。介護ロボット等の導入を3つのステップに分け、その効果を示しています。

ステップ1:
業務仕分け
施設で実施している業務をリスト化し、その中から課題となる業務を抽出して、課題解決可能な領域に仕分けます。
ステップ2:
ICT・介護ロボット等の活用
仕分けた結果を基に、インカムや記録システム、見守り支援機器などのICT・介護ロボット等を一体的に導入し、活用します。
ステップ3:
業務オペレーションの整理
身体的・精神的・時間的な余裕を生み出すために日中や夜間の業務オペレーションを整理します。

効果:北九州モデルの価値=「時間を生み出す介護」

生産性の向上・介護の質の向上・職場環境の改善

⇒ 利用者の暮らしの充実・施設運営の安定化

https://aes-medicalwelfare.com/kitakyushurt/model.html

 このように、介護ロボット・ICT機器を導入するための方法論があります。他のさまざまなコンサル内容等も同じ流れで作られているようです。ここで大切なのは、現状を把握したうえで、最適な介護ロボット・ICT機器を選択して、業務オペレーションを整理して「ムリ・ムダ・ムラ」を最小にするということです。また、専門人財の育成を目的として「介護ロボットマスター(初級・中級・上級)」も設定されております。
 全国的には社会福祉法人善光会が主催する「スマート介護士」の方が有名かもしれません。こちらは、介護ロボット・ICT機器等を用いたケア品質向上と業務負担軽減を同時に実現することができるケアスタッフの育成を目的とした資格試験です。オンライン受験ができるようですので、一度のぞいてみてください。

https://sfri.jp/smartcaregiver/

■教育機関等による介護ロボットの「導入教育」支援

 昨年、全国の介護福祉士養成校の教員に対して、アンケート調査を実施しました。内容は「介護ロボット教育の現状について」等について尋ね、約4割の回答を得ました。まず、「介護ロボットに関する教育ができているか」の問いに関しては約8割が否定的回答(あまりできていない、まったくできていない)だったことから、養成校において、介護ロボット教育が不十分であることが浮き彫りになりました。

講義等は年間6回以下が全体の約6割、教育における課題としては、「介護ロボットがない」が約7割、「予算がない」が約5割、「担当教員がいない」が約3割であったことから、介護ロボットがない、教育者がいない、時間がないの「3ない状態」であることがわかりました。これらに対して、私は以下の点を提案しています。

1)介護ロボットメーカー連携体制構築(産学連携ネットワーク)

2)介護ロボット担当教員養成研修  (教員向けスクール)

介護ロボット担当教員養成研修

 簡単に申し上げると、介護ロボットを無償もしくは低費用で養成校が借り受けると同時に、メーカー担当者(営業マン等)が講師となり、生活支援技術等のすでにある講義内で行うことで、「3ない状態」が解消されるのではないかと考えております。ポイントは新しく講義時間を設定するのではなく、既存講義内に介護ロボットを「道具」として持ち込むということです。

多くの専門学校は2年間で介護福祉士国家試験に合格をさせる知識と経験を積ませる必要があります。学生たちも教員たちも非常に忙しいため、新しい試みをする際のハードルをどれだけ下げることができるのかが大切だと考えております。私自身、教員向けの「ICT介護教育研究会」の世話人をしたり、各専門学校とメーカーを繋ぐ活動を続けたりしております。このような動きを促進するためにも、厚生労働省や文部科学省等の補助金の創設を期待しています。

■リーダーは何をすべきか

 これらのように、介護ロボットに対する教育ははじまったばかりです。しかし、介護現場の大きな課題である「ケア品質向上と業務負担軽減の同時実現」は待ってはくれません。では、リーダーであるあなたはどうするか。それは、自分だけが頑張るのではなく、周囲の人々の能力や繋がりを集めることではないでしょうか。

チームビルディング

もし、リーダーであるあなたが、介護福祉士養成校出身者であれば、母校の先生に「介護ロボット・ICT機器を学びたいがどうしたら良いか」と尋ねてみてください。また、介護材料を納入している業者に「介護ロボットに関心がある」と伝えてみてください。さらに、IT業界から転職してきた人や、若い職員たちに「介護ロボット・ICT機器についてどう思うか」を聞いてみてください。

これまでの仕事のやり方を変えるのはとても大変です。抵抗されることもあります。一人で悩まずに多くの「フォロワー」を味方につけてください。

参考:社会運動はどうやって起こすか

https://www.ted.com/talks/derek_sivers_how_to_start_a_movement?language=ja

■ラストメッセージ(誤解をなくそう)

 見守り介護ロボットを導入する話でよく聞かれるのが、「監視と見守り」の違いです。これを聞いて、日本を代表する車いす・姿勢保持の先生から伺った「身体拘束と姿勢保持」の違いについて思い出しました。これらの違いは「利用者本人に良いことがあるか」という点です。さまざまな利用者・家族の考え方、さまざまな施設の考え方があります。なので、一概にどうすれば良いかをお伝えすることはできません。
 もし、「監視ではないか」、「身体拘束ではないか」という議論がでたときには思い出してください。その取り組みは「尊厳を保持し、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができる」ことを実現しようとしているのかを。そして、逃げずに対話をしていただき、誤解されているところがあれば、分かってもらい、介護に関わるみんなが納得するように働きかけてください。期待しています。そして、迷ったときには「介護現場を逆から考えること」を思い出してください。きっと、異なる視点を獲得できて、新たな解決策が見えてくると思います。ご支援が必要なときは是非ご連絡ください。

https://neosucare.noritsu-precision.com/contact/
 10回にわたりお読みいただき、誠にありがとうございました。本コラムに関わってくださったすべての皆様に改めて感謝申し上げます。

著者:小林宏気

著者:小林宏気
1974年神戸市生まれ。博士(保健医療学)+3修士(工学・経営情報学・保健医療学)。姫路工業大学大学院、多摩大学大学院、国際医療福祉大学大学院修了。オットボックジャパン㈱、川村義肢㈱、㈱オーテックジャパン、(学)帝京大学、(社福)善光会・サンタフェ総合研究所等を経て、現在、国際医療福祉大学大学院・非常勤講師、東京未来大学福祉保育専門学校・非常勤講師、東京福祉専門学校(ICT・介護ロボット専攻)・非常勤講師、公益財団法人