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介護のお仕事お役立ちコラム

【第4回】介護現場のリーダーが理解しておくべき「チームワーク」

逆から考える介護現場の連続コラム

 前回は、介護には「正解のある仕事」と「正解のない仕事」があり、「人材育成」において、リーダーは「誰が、どちらの仕事に向いているのか」を見極めることが重要だということをお話しました。今回は、介護現場のリーダーが理解しておくべき、「チームワーク」について考えていきましょう。

■離職、最後の一撃

 こんなニュースをご覧になった方は多いのではないでしょうか。

介護職が離職を考えた理由、ハラスメントが最多 利用者との人間関係も 組合調査(介護のニュースサイトJOINT 2021年8月21日)

https://www.joint-kaigo.com/articles/2021-08-21.html

 “不安から離職を考えたことがある人の割合をみると、「上司や利用者・家族のハラスメント」が93.2%で最多。以下、「利用者・家族との人間関係がうまくいかない」が76.9%、「事業所内の人間関係がうまくいかない」が76.7%と続いていた。

退職願

 NCCUの村上久美子副会長は会見で、「人間関係を最大の不安と位置付ける介護職は少ないが、実際に問題が起きれば離職に直結しやすい」と指摘。「職場のハラスメントなどの対策は、人材確保のうえで非常に重要」と述べた。”

 以前から言われていたことではありますが、離職に繋がる最後の一撃は「人間関係」の悪化が大きそうですね。今回は人間関係を良好に保ち、成果を出す「チームワーク」について、一緒に考えていきましょう。

■評価の違い。少し高めに褒める。

 米デューク大学のダン・アリエリー教授は「仕事する意義」という動画の中で、人間は「自分がした仕事の価値を高く見積もる」ということを「折り紙」を例に述べています。

“折り紙を作るよう頼むことにしました。折り方の説明書を渡します。みんな折り紙のやり方を知らない人たちでひどい出来になりますが、それは構いません。

それから折り紙は返してもらうが、持ち帰れるならいくら出すかと聞きます。そうやってその折り紙にどれだけ価値を認めているか計ろうというわけです。彼らは自分の折った折り紙が好きでした。(笑)

それから他の人に同じ折り紙をいくらで買うか聞きました。(笑) 彼らの方はあまり気に入らなかったようです。折った本人は素晴らしいものだと思っていましたが、他の人は違いました。

ここで疑問は、折った人たちは気に入るのは自分だけと思っていたのかということです。「ああ私の折り紙の素敵なこと! みんなはいいと思わないだろうけど、私にとっては素晴らしい」と思ったのでしょうか? 違います。彼らは他の人も気に入るはずだと思っていたんです。(笑)”

http://www.ted-ja.com/2015/02/Meaning-in-labour–Dan-Ariely-at-TEDxAmsterdam.html
折り紙

 いかがでしょうか?

 あなたが一生懸命した仕事の成果に対して、上司や同僚からの評価が低いと感じたことはありませんか?そう感じるのは、あなただけではなく、すべての人に共通した感情のようです。

 私は、「仕事の成果に対しては、少し高めに評価する(褒める)ことが大切だ」と考えています。周りの人がした仕事に対して、あなたが感じているよりも「少し高め」に評価することができれば、その仕事をした人自身が感じている評価とのミスマッチが減り、満足感が高まるのではないでしょうか。

■繰り返し。一緒に失敗しよう。

 「マシュマロ・チャレンジ」というゲームを聞いたことがありますか?

 4人1組のチームで、乾燥パスタとマシュマロ等を使って、できるだけ高い塔を建てるというゲームです。世界共通のルールがあり、世界記録は99センチとのことです。面白いことに、ビジネススクールの学生チームよりも、幼稚園児チームの方が高い塔を作ることができます(笑)。

 米シンギュラリティ大学のトム・ウージェック教授は「塔を建て、チームを作る」という動画の中で、チームワークに関する極めて重要なことを述べています。

“幼稚園児たちが違っているのは、マシュマロから始めるところです。いつもマシュマロを一番上に置いて、次々と試作品を作ります。だから出来の悪い試作品を何度も修正できるのです。

そのような作業こそ、反復型プロセスの本質だと気付かれるでしょう。作るたびにフィードバックが得られ、上手く行く点、行かない点がすぐにわかります。

そして、マシュマロ・チャレンジは彼らが隠れた仮定を見出すのに役立つのです。なぜならば実のところどんなプロジェクトにも固有のマシュマロがあるからです。この課題を通し、適切な試作をするための共通の体験、共通の言葉、共通の態度が築かれるのです。それがこの実に単純な演習の価値なのです。”

https://www.ted.com/talks/tom_wujec_build_a_tower_build_a_team/transcript?language=ja
共通体験

 「チーム」には目標(ゴール)があります。職場における改善活動では、「見つかった課題を解決すること(無くすこと)」が目標になりますね。ここで大切なのは、頭で考えるだけではなく、実際に、チームで行動してみることです。そうすることで、お互いの使っている言葉の意味がわかり、考え方が理解され、ゴールに向かう態度が共感を生みます。そして、「共通の体験(失敗)」が繰り返され、チームの一体感がでてきます。

 私は、チームワークを高め、成功するための最短コースは、逆に「多くの失敗を一緒にすること」ではないかと思います。

■Tech導入とチームワーク

 見守り介護センサー等を導入すると、職場のチームワークにどういう変化が生じるでしょうか。少し考えてみましょう。

 導入すると、居室にいらっしゃる「利用者の状態」を複数のケアスタッフで共有できるようになります。例えば、夜間にスタッフが複数で勤務していた場合、居室内の利用者の動きが「同時に」わかるようになります。

 センサーの設定によっては、「思った以上に仕事が増えた」と感じることがあります。これは、今までは気がつかなかったことに、気がつくようになるからです。当然ながら、協力しなければ、対応することができない場面も発生します。ここに「チームで介護をする」という考えが必要になります。この考えが無ければ、「自分の担当ではない利用者だから、自分は対応しない」、「他のスタッフよりも、自分は対応を多くしていて不公平だ」といったネガティブな感情が蓄積してくる可能性があります。

 つまり、ケア品質と業務効率を同時に向上させようと考えて導入した見守り介護ロボットのせいで、同僚は協力も理解もしてくれないと感じ、職場の雰囲気が悪くなる。その結果、離職を考えるという最悪の事態になりかねません。

■リーダーは何をすべきか

 では、リーダーはどうしたら良いか。これまで見てきた以下の3つがポイントになるのではないでしょうか。

  1. 褒める
  2. 繰り返す
  3. 共通体験をする

 例えば、見守り介護センサーを導入に対して、最初は思ったように成果が出ないと感じることが普通です。しかし、チームで一緒に考えて、その設定や運用ルール等を利用者に合わせて繰り返し調整することで次第に、利用者にとっても介護者にとっても最適な状態に近づきます。そして、上手くいったことに対して褒めあいましょう。

 言われてみれば、当たり前のことばかりかもしれませんが、リーダーはこれらを意識して、チームを導く必要があることを覚えておいてください。きっと、見守り介護センサー等を導入したことによる成果が2倍にも3倍にもなると思います。

著者:小林宏気

1974年神戸市生まれ。博士(保健医療学)+3修士(工学・経営情報学・保健医療学)。姫路工業大学大学院、多摩大学大学院、国際医療福祉大学大学院修了。オットボックジャパン㈱、川村義肢㈱、㈱オーテックジャパン、(学)帝京大学、(社福)善光会・サンタフェ総合研究所等を経て、現在、国際医療福祉大学大学院・非常勤講師、東京未来大学福祉保育専門学校・非常勤講師、東京福祉専門学校(ICT・介護ロボット専攻)・非常勤講師、介護ロボット・ICT教育研究会・世話人、一般社団法人ワイズ住環境研究所・理事、主体的学び研究所・フェロー、株式会社シード・プランニング・顧問等。