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介護のお仕事お役立ちコラム

【第3回】介護現場のリーダーが理解しておくべき「人材育成」

逆から考える介護現場の連続コラム

 前回は、介護サービスの「質と量」を同時に向上させるには、介護職員(サービス提供者)の能力を向上させる必要がある。そのための介護ロボットだというお話をしました。今回は、介護現場のリーダーが理解しておくべき、「人材育成」について考えていきましょう。

■介護人材不足

 介護業界はなぜ人材不足なのか。このことについて考えたことがないリーダーはいないと思います。このような記事を読みながら、少し考えてみたいと思います。

「介護職員さらに32万人必要~今こそ対策の強化を!」(NHK解説委員室・時論公論)2021年07月28日 (水) 

”この人手不足を解消していくためにはどうすれば良いのか。いくつかのポイントがありますが、今回はそのうちの2つを見ていきます。1つは「賃金の引上げ」、もう1つは「若い人材の確保」です。国などはこうした点について対策を打ってきていますが、果たして十分な効果を上げているのでしょうか。”

https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/452831.html

 私はこの記事に大きな違和感を覚えます。皆さんはいかがでしょうか?

各法人・施設のさまざまな努力や介護職員処遇改善加算等の創設の結果、賃金の引上げは徐々に進んでいると思います。しかし、給料さえ増えれば、人材不足は解消するのでしょうか。若い人材の確保はなぜ必要なのでしょうか。中高年よりも秀でているのでしょうか。

■正解が〇〇仕事

 私は仕事には大きく分けて2つの種類があると考えています。それは、

  • 正解がある仕事(正解を見つけるのが容易な仕事)
  • 正解がない仕事(正解を見つけるのが困難な仕事)

 の2つです。

 「正解がある仕事」の例は「モノづくり」(生産)です。自動車工場をイメージしてみてください。設計されたとおりに、部品を組み立てて、求められた性能がでるように作り上げていきますね。ここで、ある作業員が「俺は、ボディ色は黒じゃなくて、赤がいいな」と、設計図にないことをしたら、「不良品」ということになってしまいます。ゴールが決まっているイメージですね。

 「正解がない仕事」の例は「サービスづくり」です。皆様の仕事である介護をイメージしてみてください。介護職員が考える「最高の介護」を実施しても、利用者・入居者が「満足」しなければダメですね。前回もお話をした「事前期待」を理解して、それに合わせたサービスを提供する必要があります。こちらはゴールが決まっていない、あるいはどこまでいってもたどり着けないという感じでしょうか。

 介護現場において、「正解がある仕事」は「洗濯や掃除」等の間接業務、「正解がない仕事」は「身体介助や傾聴、見守り」等の直接介護が当てはまると思います。

■創造性と報酬

 さて、「正解がある仕事」、「正解がない仕事」のどちらに創造性が必要だと思いますか?

「正解がない仕事」だと考える方が多いのではないでしょうか。私も同意見です。

クリエイティビティとインセンティブ(創造性と報酬)について、面白い動画があります。

ダニエル・ピンク: やる気に関する驚きの科学

“クリエイティビティが加速されるようにとインセンティブを用意したのに、結果は反対になりました。思考は鈍く、クリエイティビティは阻害されたのです。

報酬というのは、視野を狭め、心を集中させるものです。報酬が機能する場合が多いのはそのためです。だからこのような狭い視野で、目の前にあるゴールをまっすぐ見ていればよい場合には、うまく機能するのです。

しかし本当のロウソクの問題では、そのような見方をしているわけにはいきません。答えが目の前に転がっていないからです。周りを見回す必要があります。報酬は視野を狭め、私たちの可能性を限定してしまうのです。”

※ロウソク問題:創造性が必要な問題を指します。詳しくはリンクから動画をごらんください。

https://www.ted.com › dan_pink_the_puzzle_of_motivation

 いかがでしょうか?

 創造性が必要な問題に対して、「報酬を高めることは、逆効果になりうる」という、これまでの常識を覆す結果となっています。

 最初にお示しした記事「介護職員さらに32万人必要~今こそ対策の強化を!」に、「賃金の引き上げ」が課題のひとつだと述べられていました。もちろん、これまでの給料が低すぎたことは私自身も納得しており、さらなる上昇が必要だとは思います。しかしながら、給料を上げることによって、「介護の創造性が下がってしまう可能性」についても気を配る必要があります。

 更にいうと、介護の仕事の中でも創造性が必要な「正解がない仕事」が得意な人材と、「正解がある仕事」が得意な人材を見極めて配置することも重要です。これは、どちらが優秀だとか、そうでないとかいうことではなく、むしろ性格に起因するといってもいいかもしれません。

 「正解がない仕事」が得意な人に「正解がある仕事」をしてもらうと、モチベーションが低下してしまい、「正解がある仕事」が得意な人に「正解がない仕事」をしてもらうと、どうしたら良いのか途方に暮れる、という風になってしまうのではないでしょうか。

■これまでの教育、これからの教育

 あなたは小学校の教室で、どんな風に授業を受けていましたか?

  • 前を向いて、先生と黒板を見る
  • 先生が言ったこと、板書したことをノートに写す
  • 正解を一生懸命に覚える決まった時間に、決まった答えがあるテストをする
  • 90点より100点の方が高く評価される

 これらは「工場労働者」を創り出すためのシステムです。アルビン・トフラーは「時間を守ること、命令に従順なこと、反復作業を嫌がらないこと」が、流れ作業を前提とした工場労働者に求められる資質だと述べています。

 「モノづくり大国・日本」を続けるためには、必要なことだったと思います。しかし「正解のある教育」で、創造性が必要なサービス従事者を創り出すのは非常に難しい。現在、日本のGDPの約7割は介護を含む「サービス業」です。私は景気低迷の一因として、「正解のない教育」を進められなかったこともあるのではないかと考えています。

 実は、教育業界はこのことに気が付き始めています。「アクティブラーニング」や「主体的学び」という言葉がでてきたのもその1つです。正解を覚えさせて、答えさせるという「正解のある教育」(先生から生徒へのトップダウン型)から、課題を設定させて、答えを考えさせる「正解のない教育」(生徒から先生へのボトムアップ型)に、変わりつつあります。

 先の「介護職員さらに32万人必要~今こそ対策の強化を!」に、「若い人材の確保」が課題とされていました。それは、「若い人の方が、力があり、介護で酷使することができるから」ではなく、「正解のない教育」を受けてきた人材の方がより多く、「正解のない仕事」ができる可能性が高いからだと思います。大胆な言い方になるかもしれませんが、これまでの「正解がある教育」で成績が悪かったとしても、気にすることはありません。サービス業は「全く別のモノサシ」で価値を作ることができ、評価される可能性が高いのです。

■テクノロジーの使い方

 「正解がある仕事」、「正解がない仕事」でテクノロジーの使い方がまったく変わります。

 例えば、「掃除」であれば、「部屋をきれいにする」という正解に向かって、より効果的効率的に実施できるテクノロジー(ロボット掃除機等)を使うのもいいでしょう。

 他方、「見守り」であれば、「離床したら、どんな入居者でもすぐにかけつける」という「施設側が一方的に考える正解」ではなく、刻一刻と変化する入居者それぞれの状態やニーズに対して、常に調整を続ける必要があります。言い方を変えると、介護は「さまざまな見守り介護ロボット等が収集する情報と制約条件(時間や人手等)を総合して瞬時に判断するクリエイティブな仕事」であるといえます。

■リーダーは何をすべきか

これまでの話を整理します。

  1. 介護には、大きく分けると「正解のない仕事」、「正解のある仕事」がある
  2. クリエイティビティ(創造性)とインセンティブ(報酬)は反比例する
  3. 「正解のない仕事」には「正解のない教育」を受けてきた人材を充てる
  4. 「正解のある仕事」には「正解のある教育」を受けてきた人材を充てる

 もちろん、ベテランの中にも「正解のない仕事」が得意な方がいるし、若い人材の中にも「正解のある仕事」が得意な方もいるでしょう。リーダーには「誰が、どちらの仕事に向いているのか」を見極めて(人材適合)、その上で導く必要があること(人材育成)を、ぜひ覚えておいてください。

著者:小林宏気

1974年神戸市生まれ。博士(保健医療学)+3修士(工学・経営情報学・保健医療学)。姫路工業大学大学院、多摩大学大学院、国際医療福祉大学大学院修了。オットボックジャパン㈱、川村義肢㈱、㈱オーテックジャパン、(学)帝京大学、(社福)善光会・サンタフェ総合研究所等を経て、現在、国際医療福祉大学大学院・非常勤講師、東京未来大学福祉保育専門学校・非常勤講師、東京福祉専門学校(ICT・介護ロボット専攻)・非常勤講師、介護ロボット・ICT教育研究会・世話人、一般社団法人ワイズ住環境研究所・理事、主体的学び研究所・フェロー、株式会社シード・プランニング・顧問等。