【第2回】介護現場のリーダーが理解しておくべき「サービス品質」
逆から考える介護現場の連続コラム
前回は「下から」支えるリーダーも必要となってくる。といったお話をしました。今回は、介護現場のリーダーが必ず理解しておくべき、「サービス品質」について考えていきましょう。
■介護品質とは
日本を代表する研究機関である産業技術総合研究所からこのようなリリースがありました。
社会課題を解決するための包括的な相互協力に関する協定の締結
https://www.aist.go.jp/aist_j/news/pr20210609.html
このリリースの中に以下のような興味深い文言があります。
“介護職員の配置数で介護品質を評価するのではなく、被介護者の生活の質などから介護品質を評価する方法を開発し、標準化を目指します”
現在は、介護施設の基準で利用者3名に対して1名以上の介護・看護職員を配置することが決まっています。特に有料老人ホームは厚く職員を配置していることを介護の品質が高いという「売り」にしていますね。今回、産総研は「職員配置数≠介護品質」にトライするということのようです。さて皆さん、「介護品質」と言われて、これまでどのように考えていましたか?そもそも、「介護」にはどういう性質があるのでしょうか?このあたりについて、考えていきましょう。
■モノとサービスの違い
皆さんは「モノ」と「サービス」の違いがわかりますか?「モノ」といわれると、身の回りに多くありますね。この記事を「モノ」であるスマホで見られているかもしれません。では、「サービス」は、どのようなものが思い浮かびますか?
実は、経済学では「市場で交換される財にはモノとサービスがある」と言われています。つまり、お金を出して買うことができるものには「モノ」と「サービス」があるということですね。これらには、以下のような性質があります。
- モノ:形がある。在庫ができる(生産と消費が同時でなくてもよい)。購入すると所有権が移転する。(例:スマートフォン、服、食べ物等)
- サービス:形がない。在庫ができない(生産と消費が同時である)。購入しても所有権は移転しない。(例:散髪、交通、教育等)
いかがですか?身の回りにある「モノ」と「サービス」を当てはめてみてください。どうやら、介護には「サービス」の性質が当てはまりそうですね。
■サービス品質とは
次に「品質」について考えてみましょう。モノ品質には設計品質と生産品質があります。つまり、目的に応じた設計ができていたのか。設計した通りに生産することができていたのか。この2点から品質を評価することができます。いわれたように、きっちり作る。日本人には向いていますね。
これに対して、サービス品質は「事前期待と知覚(体験)の差」だといわれています。例えば、マッサージというサービスで考えてみましょう。
- Aさんは、受けたマッサージに「満足」でした。
- Bさんは、受けたマッサージに「不満」でした。
- マッサージの内容はまったく同じでした。
なぜ、AさんとBさんは「真逆の評価」をしたのでしょうか?その理由は、AさんとBさんの「事前期待」が異なっていたからです。つまり、事前にどのような期待をしていたかによって、同じサービス(マッサージ)を提供されても、評価がまったく異なったのです。
介護現場でも、同じようなことはないでしょうか。A利用者にも、B利用者にも同じように介護をしていても、まったく異なる反応があるといったことは多くの方が実感されていることと思います。それは、介護がサービスであり、その評価は「事前期待と知覚(体験)の差」で行われているからだといえます。
これらのことから、「介護品質」の大きな要素の1つは「利用者の事前期待」であることがわかりますね。
モノ品質は提供側(企業側)が決めることができます。しかし、サービス品質は需要側(利用者側)が決めています。モノとサービスは逆なんですね。
ケアプラン作成のために、必ず利用者に対するアセスメント(情報収集と課題分析)をしていると思います。サービス品質の観点からいうと、「アセスメントは事前期待を確かめる工程である」ということがいえそうです。もし、アセスメントをおろそかにしている介護事業者があれば、それはサービス品質という点から「論外」だということがよくお分かりだと思います。
利用者の事前期待を確かめ、それに応じたサービスを過不足なく提供することが肝要です。事前期待に満たない介護を提供すると「不満」になります。事前期待を上回る介護を提供すると「満足」されますが、介護スタッフの「業務量が多く」なります。事前期待に合った介護を提供することで、「介護品質」と「介護負担軽減」を同時に満たすことができるのです。
■より高めるには
このように言うと、「いやいや、利用者からの介護に対するニーズはどんどん高まり、介護スタッフも減って
きているんだ!」とお叱りを受けそうです。その通りです。日本は少子高齢化が加速しており、介護の利用者は増え、提供者は減ることがわかっています。さらに団塊世代は多様な価値観を持ち、介護に対する事前期待も高まっていくと予想されています。介護品質と介護負担軽減をこれまで以上に高めていく必要がありますが、介護というサービスを大量生産して、在庫することはできないのです。
唯一の解決策は「サービス提供者の能力向上(拡張)」しかありません。つまり、介護スタッフが「よりはやく」、「より適切な」サービス提供ができるように能力を向上(拡張)させる必要があります。
■能力拡張としての介護ロボット
ひとりの介護スタッフに対して、見守る必要がある利用者が増えれば、介護スタッフの「目」を増やす必要があります。しかも、各居室に「目」を置いてこなければなりません。当然ながら、そんなことはできないので、代わりに「見守り介護ロボット」等を用います。
介護ロボット導入に反対する方の多くは、介護ロボットが自分たち介護スタッフの「仕事を奪う」と勘違いしています。そうではなく介護ロボットが自分たち介護スタッフの「能力拡張」をしているのです。
■アイアンマンになろう
アイアンマンという映画をご存知でしょうか?
主人公が、最新メカスーツを身にまとって、悪を倒すヒーローものです。私がこの映画を好きなのは、最新メカスーツが凄いのではなく、「中に入っている主人公の心」が大切だと伝えている点です。
介護ロボットが介護現場に入ってくると、介護負担軽減が進みます。そこで楽になったからと言って、遊んでいてもいいのでしょうか?実は、介護ロボットを使う「介護スタッフの心(倫理観)」が大切ではないかと私は考えています。
介護品質と介護負担軽減を同時に実現するためには、介護スタッフの能力向上(拡張)が必要であり、そのための「道具」が介護ロボットです。そして、使う介護スタッフの「心」が大切だということを、ぜひ覚えておいてください。
参考文献:近藤隆雄.サービスマネジメント入門―ものづくりから価値づくりの視点へ.
生産性出版, 2007
著者:小林宏気
1974年神戸生まれ。博士(保健医療学)+3修士(工学・経営情報学・保健医療学)。姫路工業大学大学院、多摩大学大学院、国際医療福祉大学大学院修了。オットボックジャパン㈱、川村義肢㈱、㈱オーテックジャパン、(学)帝京大学、(社福)善光会・サンタフェ総合研究所等を経て、現在、国際医療福祉大学大学院・非常勤講師、東京未来大学福祉保育専門学校・非常勤講師、東京福祉専門学校(ICT・介護ロボット専攻)・非常勤講師、介護ロボット・ICT教育研究会・世話人、一般社団法人ワイズ住環境研究所・理事、主体的学び研究所・フェロー、株式会社シード・プランニング・顧問等。